2007年12月28日金曜日

論説・地デジ化に黄信号 県民の視点で対策を


テレビのアナログ波が止まる2011年7月まであと3年半。その後は、国内すべての世帯が地上デジタル放送に移行しなければならないが、総務省の市町村別ロードマップで見通しの厳しさを知った全国の自治体が、停波の時期の見直しも含め対策を迫っている。

総務省による地デジ化の進捗(しんちょく)状況は、山間へき地への中継局の整備が遅れ、このままでは全国で約70万世帯が衛星経由でしかテレビを見られない可能性があるという。見ることができる番組は東京キー局の分だけ。緊急の災害や暮らしなど地域情報からは、おいてけぼりをくうことになる。

■自治体は国に反発

地域情報の充実は旧郵政省時代から国も強く指導してきたし、今回の地デジ化の狙いのひとつでもある。手のひらを返すような今回の国の態度に自治体側は反発、こうした対策しか取れないのなら2011年のアナログ停波を容認するのは難しいと申し入れたのだ。
アナログテレビ放送を終了し、すべてデジタルに変えるという電波法改正は01年の国会で決まった。同じ年にIT革命の恩恵をすべての国民が享受でき、世界最先端のIT立国を目指す「e―Japan戦略」も決定された。
それから6年、動画も高速で送れる光ファイバーなどブロードバンドが列島の隅々まで引かれ、「いつでも、どこでも、誰でも」という携帯電話も加えたユビキタス構想や、放送と通信の融合という計画も固まった。こちらの実現目標は地デジより1年早い2010年度。だが、いずれも完全移行の道は今なお遠い。
もともと、放送に関する権限を持つのは総務省。放送局もNHKは全国、民放はエリア内のすべてで受信できるようにすることが放送法で規定されている。つまり法的に地デジ化の責務を負うのは、この両者であって自治体ではない。とはいえ自らの地域住民を、国を挙げたこの新たな動きに乗り遅らせるわけにはいかないと、自治体もこれまでは国家戦略を支えてきた。
たとえば佐賀市は合併で加わった旧富士町や旧三瀬村など山間部に新たにケーブルテレビ網をつくり、管理は佐賀シティビジョンに委託するといった「公設民営方式」で乗り切ろうとしている。ただ長くもっても光ファイバーは10年、システムは5年ごとに更新する必要があり、財政負担は一度きりで終わらず、その後も重い。佐賀市以上に台所事情が厳しい他の市や町ではこの方式さえ難しい。

■急速な合併、統合

さらにここにきて、気になる動きがある。国際競争力をつける名目でNTTが東西の統一を目指し巨大化を図ろうとしていることや、東京キー局がこぞって系列局への出資枠を広げ子会社化を狙っている、などの憶測が出ていることだ。携帯電話会社や通信、映像の企業、家電や商社、さらには外資系企業も加わって急速に合併、統合を進めている。
これら大手企業や、暫定的と断りながらもこれまでの情報政策を臆(おく)面(めん)もなく翻す総務省の姿を地方から見ると、彼らが唱えてきた情報化の狙いはつまるところ経済面だけだったとしか映らない。高速道路や新幹線を引っ張ってきた結果、人や金が圧倒的に東京に吸い込まれる「ストロー現象」を、県と県民がつくったネットワークに再現させるわけにはいかない。
県は腰をすえ、これまで以上に県民の視点から知恵を絞り、情報化対策を練り直すしかない。スピードを競うより中身にこだわり、県独自のモデルづくりを目指すべきだ。

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