2009年1月23日金曜日

論説・児童ポルノ禁止法改正 冷静に議論尽くせ


 インターネットの普及とともに児童ポルノや子どもの性的虐待画像が広まっているのに、日本の規制が手ぬるい。個人でこの種の映像を持つことを禁止し、過激なアニメーションや漫画なども処罰対象にすべきだと、ユニセフから詰め寄られている。

■11万4000人の署名

 日本ユニセフ協会大使を務めるアグネス・チャンさんが先週、早期の児童ポルノ禁止法改正を求める11万4000人分の署名を携え、自民党の保利耕輔政調会長ら与野党幹部に提出した。昨年11月にユニセフが主催し、140カ国が参加してブラジルで開いた「第3回子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」が決めた行動計画を受けての行動だ。
 いたいけな子どもたちが心ない大人たちの享楽のための商品になる。こんなむごい事態を容認する国はない。日本も1999年に児童買春・ポルノ規制法を施行、2004年に改正し罰則を強化した。
 ただ、さらに改正すべきと求められている「単純所持」については、芸術的なソフト18歳で切るか切らないかなどによって処罰範囲が広がりすぎ、結論を出せないまま法改正に盛り込まれなかった経緯がある。その後5年、与野党ともに法案を練ってはいるようだが、ともにこの点をしっかり詰めきったとは聞かない。
 さらにユニセフは主要8カ国(G8)の中で、単純所持を規制していないのは日本とロシアだけ、という主張を繰り返す。事実その通りだが一方でこんなデータもある。イタリアに本拠を置く児童保護団体が07七年に行った調査によると、ネット上に置かれた児童ポルノのサイト数は約4万件で、日本は国別順位で7位、457件。トップ3は、いずれも単純所持を禁じているドイツ、オランダ、米国で全体の85%を占めた。

■表現の自由前提に

 むろん、このことだけをもって法改正は意味なしと論ずるつもりはない。ただ改正するのなら、たとえばネットワークで偶然入手したケースへの対応など児童ポルノの要件を正確に規定し、明文化しておかねばならない。あいまいな言葉では解釈に幅ができ、恣意(しい)的な捜査を許す結果にもつながりかねないからだ。
 もうひとつ、この種の事犯を誘発する危険があるという理由で、アニメなどの創作物を規制する動きには「表現の自由」をしっかり担保する前提なしに賛成はできない。
 確かにアニメの一部に過激すぎるものはある。だが、ではどこからが「過激」かという線引きは、「わいせつ」の概念をめぐり表現者や法律家たちの間でいまだに論じられる「チャタレー事件」の例を引くまでもなく難しい。「公序良俗」などの抽象的概念は国や時代によって判断が分かれる。そうならないよう法制化の段階で言葉を慎重に選ばねばならない。
 今、世界のネット事業者たちが連携し、フィルタリングと呼ぶネット網でこれら違法データをはじき飛ばす動きが広がっている。昨年11一月にはこのホットラインが奏功し、国内でも日本人3人が逮捕された。深刻な世界不況の中、国会で急ぎ審議すべきテーマは山とある。この問題はこれらと切り離し、慎重に詰めるべきだ。

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