2008年3月29日土曜日

論説・救急医療崩壊 ICTも使い対応急げ



 

 救急医療現場で患者の搬送受け入れが深刻化する中、救急隊と病院側の連絡をスピーディーに進めるICTシステムが話題になっている。危機的状況に陥った医師不足など医療の構造的問題の解決を急ぐとともに、ICT分野にも視野を広げ導入を検討してほしい。

 この話題のシステムは、岐阜大学の医学部と工学部が共同で開発している救急医療情報共有支援システム「ジェムシス(GEMSIS)」。地域の救急病院がネットワークを組み、各病院では医師全員が自らの専門分野などを書き込んだICカードを持つ。救急当直の医師たちがカードを読み取り機にかざすと、治療や手術中、待機中など、それぞれの状況がネットワークにリアルタイムで送られる。
 一方、現場では救急隊が患者の年齢や容態などをマイクに吹き込むと、音声が文字情報としてシステムに入力され、患者の症状に対応できる最適の病院が絞り込める。後は空き病床の有無を近い順から確認するだけ。患者の自宅前で待機したまま受け入れ先を探し、ひどいときには数十カ所も電話をかけ続ける救急隊の苦労は大幅に減る。

■救命をスムーズに

 病院側は患者の容態と救急車到着の時間が伝わるので、事前に態勢を整えられる。救命へのむだな時間が一気に短縮される。こんなすぐにでも実用化したいシステムがまだ5000万円ほど資金が足りないため完成に至っていないという。もったいない。
 高速で動画のやり取りができるブロードバンドがほぼ全域に行き渡り、WiMAXなどの無線インフラ(情報基盤)整備にも前向きな本県なら、すぐにでも使えそうなシステムだ。開発技術はそれほど難しいと思えない。佐賀大学や県内ベンチャーでも取り組めそうだ。なぜこれが岐阜という地方の大学でほそぼそと進められているのか。受け入れに時間をとられるうちに命を落とす患者が、今この瞬間にもいる。何としてもこの事態を回避しなければならない。
 むろんこのシステムが実用化されても、肝心の医師や看護師がいなければ問題の解決は遠い。

■集団辞職の事態に

 日本の医療費は高いという不信感が高まったのに病院側の説明が不足。「眠れない」「さみしい」など、救命救急の場にそぐわない患者の増加。その中で多発する医療過誤をめぐる民事訴訟。特に福島県で起きた癒着胎盤に起因する患者死亡のケースでは、1人の当直医が有罪となり、抗議した医師たちが集団辞職する事態に発展。これを機に産婦人科医や小児科医が激減していった。
 また自戒を込めて言うと、こうして救急受け入れが困難になった病院の実態を理解せぬまま「たらい回し」「拒否」などと一方的に非難するメディア。景気低迷を背景に診療報酬を削減し続ける行政。さまざまな要因が重なり、わずかこの数年で日本の医療は「崩壊」と叫ばれるほどの混乱に陥った。
 結果、地方のとりわけ自治体病院では医師不足が急速に進み、県内でも小城に続き武雄市民病院が救急医療の受け入れをやめた。県内の救急告知病院は10年前の約8割に減り、受け入れる病院の負担はますます増え続けている。
 政府もようやく重い腰を上げ、2008年度から大学医学部の定員増を決めた。だが医療費抑制については言及しない。これでは市民病院の救急再開ができない。診療報酬について再検討するとともに、ジェムシスなどICT分野も駆使するなど、あらゆる方法を検討し、1日も早い救急医療体制の再構築を急がなければならない。

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