2007年9月30日日曜日

論説・ウィキペディア騒動 いじましい官僚の姿


 誰もが自由に書き込み、編集できるネット上の無料百科事典「ウィキペディア」に、多くの省庁が自らに都合のいい修正をしていた。特定組織からの書き込みが分かる日本語版スキャナーの公開で発覚した。この〝新兵器〟の登場でネット事典の精度は上がりそうだ。

■「集合知」システム

 ウィキペディアは、2001年に米国で開設されたオンラインの百科事典。誰もが自由に項目を掲げて執筆でき、これを読んだ別の人が間違いを見つけたら校正し、加筆もできる。この作業を繰り返すことで、項目数や精度のアップを狙った「集合知」システムだ。不特定多数が参加できることから、事実誤認や利益誘導につなげる内容もあり、信頼性に疑問を挟む声もある。
 ただ精度に関しては、科学論文誌「ネイチャー」が2005年12月に「科学分野の正確性では『ブリタニカ百科事典』に匹敵する」と発表、開設からわずか4年で同誌の「お墨付き」をもらった。ブリタニカ側はこれに反発、ネイチャーとの間で論争が続いたが、結果としてウィキペディア人気に拍車をかけた。
 科学分野以外ではまだまだ精度に問題はあるようだが、なにしろ無料。特にITや時事問題など動きが早い分野では、リアルタイムで修正されていくため重宝だ。ちなみに安倍首相の辞意表明会見が始まった数分後には「安倍晋三」の項目に、その事実が追加された。現代用語事典が次々廃刊に追い込まれている原因もここにある。
 ウィキペディアの項目登録数はことし4月現在、251の言語による700万件。うち日本語版は35万項目で、今も日々増え、校正され続けている。
 運営しているのは米国の非営利団体。小額の寄付もあるが、ほとんどはボランティアが支える。「ウィキスキャナー」も、米国の科学者が開発し無償で提供した。どこのコンピューターが記事の修正や削除を行ったかを過去5年分さかのぼってチェックできる。
 公開された途端、米国の行政機関や企業、宗教団体などによる改ざんの事実が次々に発覚。数週間後に日本語版が上陸すると、日本でも省庁や自治体、多くの法人による恣意(しい)的な修正が明らかになり、批判された。

■未明や早朝に集中

 試みにこのスキャナーを使い、問題になった行政機関の修正ぶりを調べてみた。結果は、自らの組織に関する項目とアニメやネットゲームの項目の修正、校正がほとんど。書き込まれた時間は未明や早朝に集中していた。ここから推量すると、修正したのは若い官僚たちだろう。自らが所属する省庁への批判をかわすため他省庁への責任転嫁や批判を繰り返し、都合が悪い部分はばっさり削除している。
 このふるまいから浮かび上がるのは、専門の知識だけでなく、流行のアニメやゲームに関しても自慢げにうんちくを語るシニカルで要領のいい若者の姿だ。何ともいじましいが、そんな彼らを育て上げたのは大人。経験者としての立場からたしなめ、しかる大人の存在が希薄になったつけが、今回も垣間見えたようで気分は重い。
 ところで佐賀県庁からの修正も12件あった。ただ内容は、ゲームの項目に、助詞の修正が1件、それ以外は「佐賀県」に関する事実関係の修正だけだった。ことし3月以降の書き込みはない。
 今回の新兵器の登場で偏った見解が減少する分、精度は高まる。利用はますます増えそうだ。しかし、いずれにしてもウィキペディアを使う際は、いたずらを含め間違いや偏りがある可能性を念頭に置いておく必要はある。

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