2007年4月28日土曜日

論説・ネットカフェ難民 徹底した調査と対応を


 厚生労働省は、日雇いの派遣労働をしながらインターネットカフェを泊まり歩く若者たちの実態調査に乗り出す。「ネットカフェ難民」とも呼ばれるこの現象の背景には派遣労働の劣悪な現状も浮かぶ。調査にとどまらず、その解決に向けた対応が必要だ。
 注目すべきは、この若者たちが働く意欲を持っている点だ。同世代のニートや、ホームレスとは決定的に異なる。ただその仕事が日雇いや短期間の契約労働であるため安定した収入が得られず、家賃や光熱費をまとめて払うアパート暮らしができない。結果、携帯電話片手に深夜のネットカフェを転々としているらしい。
 一方、かつて日雇い労働の最たる担い手が住み暮らしていた東京・山谷の「ドヤ(簡易宿泊所)」は改装され、どこよりも安い宿として、今や外国人旅行者の人気スポットに変わった。住人たちは高齢化し、めっきり減ってしまった。何のことはない、「日雇い」の担い手が世代交代し「ドヤ」がネットカフェに変わっただけだ。

■劣悪な労働環境
 ネット上の掲示板などによると、派遣元による〝ピンハネ〟の横行をはじめ労働環境が依然として劣悪であることもまた変わりがない。雇用保険や社会保険もらち外で、セーフティーネットの対象外に置かれている。
 「難民」の中には、バブル崩壊後の「就職氷河期」で正規社員になれなかったまま、あるいは就職した会社の倒産でやむなくこんな暮らしを続けている人が多いという。生まれた時が悪かった、運がなかったと、あるいは本人たちはあきらめているかもしれない。しかし少なくとも政治はこの状況を放置してはならない。
 もうひとつ浮かび上がる問題は「派遣」。かつて職業安定法は、悪質な派遣元から労働者を守るため間接雇用そのものを禁じた。しかし経済界の強い要望のままに1986年に施行された労働者派遣法は、改正を繰り返しながら適用業種を拡大、この立法趣旨を骨抜きにしてきた。制定にあたってモデルとしたフランスが派遣元や派遣先への規制を厳しくし、賃金も正規社員の一割増しを義務づけているのとは大違いだ。まずこの点こそを改正すべきだ。
 経済界が果たすべき責任は雇用だ。幸いなことに今年の就職戦線は団塊世代の退職と好景気が重なり、空前の売り手市場。採用したいため学生を接待する企業まであるらしいが、むしろこれを機会に採用年齢を引き上げる努力をすべきだろう。

■ネット犯罪の温床
 ネットカフェが登場したのはほんの5、6年前。その後一気に増え、業界によると現在その数は約2800カ所。県内はまだ10カ所に満たないが、じわじわと増え続けてはいる。またハンバーガーなどのファストフードで朝を迎える「マック難民」は以前から地方でも広がっており、これを合わせるとその数は数倍に跳ね上がる。
 ネットカフェにはこのほか、自らのパソコンを使わずにすむためネット犯罪の温床になっているとの指摘もある。さらには親からの暴力などで家に帰られなくなった被害者たちが数多く交じっているようだ。この際、厚労省の枠にとらわれず、こうした実態にまで迫るよう調査の網を広げ、対応してほしい。
 インターネットがもたらした情報革命は、経済活動で恩恵を受けた半面、失業者を増やすという新しい苦痛を背負い込んだ。効率化が目指すのは余暇であり、考える時間だったはずだ。こうした事態は速やかに軌道修正されなければいけない。

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