1999年12月11日土曜日

論説・ 文部省は革命の気概で


 文部省が教育改革を特集した1999年度の教育白書を公表した。臨時教育審議会が発足した一九八四年以来の教育改革年表を作成、小中高の授業時間を大幅に減らし、中高一貫校や総合学科の高校新設など成果を強調している。

■地方も同じ進学熱
 「お役所文書」をやめ、一問一答形式で改革の現状を分かりやすく解説、図表なども多用しており、この点は評価できる。県内の自治体や学校では、お役所用語でなければならないという世界が一部根強く残っている。地方への刺激にもなると期待したい。
 今回の白書ではまた、教育内容を削減したことで学力低下を懸念する声に「基礎、基本を習得し探求心を身に付けることで、学力の質は上がる」と反論、国民の不安にこたえたとしている。だが、そこまで自画自賛していいものか。
 有名大学や高校への入学には公立より私立が近道と信じ込む保護者を、どれほど説得できるかとなると、かなり心もとない。現に改革の一つ、小中学校の通学区域の緩和では、東京・品川区で〝自由化〟したところ、中学受験が多い特定の小学校に人気が集中。公立小でも早速序列化が懸念される事態となった。今回の白書公表前日の出来事だ。
 「お受験」に象徴されるように、幼児期から親の進学熱は高まるばかり。この傾向は都会も地方も同じ。幼いうちから慣れ親しむ方がいい音楽や語学はともかく、大人も読めないような難しい漢字を覚えさせるやり方などには、どうしても納得がいかない。
 過熱する一方の進学熱の元凶は大学入試。文部省は既に数十年前から改革を標ぼうしているが結果はさっぱり。論文が増えるなど、ふるい落とすだけのやり方からいくらか変化してきたとはいえ、小手先の手直しに終始していると言われても仕方ない現状。有名大学を卒業した官僚の不祥事は、今や枚挙にいとまがないが、こうした現実も熱を冷ますまで
には至っていない。

■他人との接触重要
 「お受験」や塾通いの傍らでいじめや不登校が続く。卒業後も無気力で判断力を持ちえない若者、子どもをせっかん死させる親が後を絶たない。教育荒廃の表れとしか思えない。受験より社会性の指導こそ優先されるべきだろう。
 知識は自らが知りたいと欲したときに、いつでも求められる。そしてその欲求は、友人や知人との付き合いの中で何かに興味や関心を持ったときに自然に生まれてくる。自ら欲した知識こそ大事、他人との接触こそ重要だ。
 焦って暗記する必要はない。たくさんの辞書が詰まった電子ブックはもっと小型化し、腕時計並みになるだろう。おぼろな知識でも広範に持っていれば十分。今現在の正確な知識はコンピューターが瞬時に教えてくれる。デジタル革命が進む中、学校での勉強の仕方や優先度もおのずと変わる。
しかし、白書は深刻さを増す学級崩壊などについて公表済みの調査結果や従来の対策を示すにとどまった。現状を考えれば、課題は重く、同時に期待も極めて大きい教育現場の課題に対しても踏み込みに欠ける。経済をはじめ社会全体が大きく変わりつつある。教育も改革ではなく革命を起こすぐらいの気概で臨んでほしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿