1999年8月14日土曜日

論説・問われる教育の中身

佐賀市のある家庭が、数カ月の間に家族同然の犬二匹、バイク二台を立て続けに盗まれ、おまけにごみまで投げ込まれる被害に遭い悲嘆に暮れている。
 繁華街の通りに面した場所柄、通りすがりの犯行の可能性が大きいが、それにしてもひどい。本当に涙を流しわが子を捜す母犬の写真を載せ、ペットコーナーで記事にしたが、まだ朗報は聞けない。

■二大対策効果なく
 県内で、窃盗がまたじわりと増えてきた。ピーク時、年間二千五百台を超えた自転車盗が、駐輪場の整備や防犯登録の義務化で、九四年には千件を割るまでに激減した。
 ところが、その後再び増え、ここ数年千三百件台で推移。バイクも昨年までの三年間、七百件台が続いていたが、今年は既に六月までで四百三十六件、この勢いだと八百件を超えそうだ。
全国も同じ傾向。自転車四十万台、バイク二十万台が毎年盗まれている。
 それにしても二つもの大きな対策を講じ、効果があったと喜んだのもつかの間、またぞろ被害が増え始めたというのは、何とも気がめいる。しかも検挙者の大半は少年。犯罪白書によると、やはり少年犯罪も四年前の平成七年を底に、増加を始めている。
 戦後の少年犯罪の推移は三つの大きな波がある。一九五一年、六四年、八三年がそのピーク。
五一年はもちろん終戦直後の混乱期。六四年は高度成長期の真っただ中。全国にスーパーが開店し、万引が急増、自転車盗も一気に増えだす。シンナー乱用や交通違反、粗暴犯や性犯と、非行のオンパレードだ。
 そして八三年はバブル。企業が多角経営に乗り出し、父親の転勤や単身赴任が社会現象化する中、校内暴力が全国に広がり、いじめが横行、女子の非行や低年齢化も目立ち始めた。

■時代の動きに同調
 また、この三つの大波に関係なく、一貫して増え続けているのが窃盗。横領を含めると、全体の八割強にも上る。欲しいから盗む、動機は極めて短絡的だ。相手が受ける心の痛みなど、これっぽちも顧みない。
 検挙された少年らに限らず、最近の子どもは極端にボキャブラリーが少ない。しかも多用するのは「むかつく」「けりを入れる」など暴力的なものばかり。思考は、その人の持つ言葉で行われる。狭い思考世界が、短絡的な犯行を生む。
 こうして見てくると、非行は学校や家庭より社会、時代の流れの中で特徴的動きを示していることがよく分かる。家庭はむろん、ときには学校さえ社会に同調する。社会を動かすエネルギーは経済だが、コントロールするのが政治。結局ここに行き着く。
 「盗むなかれ」は聖書の中の言葉。紀元前から犯罪の代表だった。しかもいまなお膨張を続ける。政治家、官僚、医師など高学歴者の犯罪は枚挙にいとまがない。子どもたちに何を教えるべきか。家庭、学校、そして政治に教育の中身が問われる。

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