1999年5月22日土曜日

論説・就職活動 人生最初の岐路、頑張れ

学生の就職がさらに厳しさを増した。今春の4年制大学卒業生で職に就いたのは92・0%。前年を1・3ポイント下回り調査開始以来、最低になった。短大も同じだ。
 調査開始は96年だが、バブルがはじけた92年以降、この傾向は続いている。毎年マスコミが就職戦線に〝名前〟を付けており、92年は「土砂降り」、93年「洪水」、94年「氷河期」、そして95年以降が「超氷河期」。こうして並べてみると、マスコミがあおっているという批判もなるほど否定しにくい。

■学生起業家も登場
 この結果、というわけでもないだろうが大学などによると、夏ごろまでで早々と就職活動をやめてしまう学生が増えているという。とりあえずアルバイトの口はあり、フリーター暮らしでしばし糊口(ここう)をしのぐのか。
 雇用は不況の影響が遅れて出る。来春はもっと厳しさが増すと、文部省は早くも懸念しており、若い人の間に厭世(えんせい)的な空気がさらに広がるのでは、と気になる。
 その一方で、いっそ自ら会社をつくってしまおうという若者も、徐々にではあるが現れてきた。学生起業家といわれる人たちだ。
 福岡県飯塚市を拠点に、九州工業大学の大学院生と会社社長の〝二足のわらじ〟を履く下野雅芳さん(28)もそんな1人。3年前、大学の2人の後輩と一緒に、合資会社「キュー」をつくり、コンピューターネットワークの敷設やパソコンの教育事業に取り組んだ。
 そして今月11日には株式会社「キューブ」を設立。少量の音声情報から質のよい音声に復元する独自の技術を引っ提げ、事業展開に乗り出した。低料金インターネット電話の普及をにらみ、手ごたえは十分という。

■数社で音上げるな
 「21世紀には株式を上場し技術と教育、LAN構築など専門部門ごとに分社化、そのころはおじいちゃんになっているだろうから、あとは大学教授として、ゆっくり過ごします」。生涯の青写真も見事。同時に「飯塚を日本のシリコンバレーにしたい。その先導役を担いたい」と壮大な夢も熱く語る。
 もちろん起業は簡単ではない。安定的成長が見込めることは当然だが、若い経営者の資質、力量に出資者の視線は厳しい。景気が鎮静化している時だけに、会社の運営もおいそれとはいかない。だれもが下野さんにはなれない。
 就職活動は、大学までなんとなく過ごしてきた学生にとって、最初に体験する人生の岐路ともいえる。初めて会うプロの大人相手に、わずかな時間で自分を売り込むというのは大変なことだ。学生に人気のある企業などでは、初めからふるい落とそうというところもあろう。
 だが、その経験を数多く積むことは、その後の人生に大きなプラスになるはず。仲間が次々に内定していけば、取り残されるような不安も出てくるだろう。今までの生き方を否定されることもあるかもしれない。
そうしたつらく苦しい「試練」を通じ、何かが見えてくるのではないか。わずか数社にトライしただけで音を上げていては話にならない。就職活動は会社選びと同時に、生き方の選択でもある。

0 件のコメント:

コメントを投稿